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『ゆれる』 [日本映画]

[僕は元の、僕の兄貴を取り戻すために、
自分の人生をかけて、本当のことを話そうと思います。]

予告編で流れるこのセリフにひっかかった。
元の兄貴ってなに?
今の兄貴は本当の兄貴ではないってこと?
そんなこと言えるほど兄貴のことわかってるの?
元の兄貴とはあなたにとって都合のいい兄貴ってことじゃないの?
傲岸不遜ではないですか。

このセリフがどのような流れで発せられ
どんなふうに周りが受け止めるるんだろう。
感動的なシーンと位置づけられていたら、
それは違うと感じるんじゃないかな。

そんな私のひよわな想像をはるかに超えたものが
この映画にはありました。
見事でした。
緻密に織り上げられたストーリー
張りつめた空気が流れている。
香川照之とオダギリジョーが素晴らしいです。

兄の気持ちはずっとずっと揺さぶられ続けていた。
単調な毎日の中で、報われないという不公平感が
心にさざなみをたてる。

弟の法廷での発言に対する兄の反応は
まるで勝ち誇ってるようだった。
おまえの本音はそれだろう。
やっと引きずり出してやった。
とでも言いたそうだった。

弟の猛が智恵子を送って帰ってきたときの
兄・稔との会話。
このあたりから緊迫感が漂う。
一緒に食事したことを前提にして問いかけるような兄の言葉。
風呂には入るのか」と聞く。
まるでもう入ってきたからいいのかと言いたげに聞こえた。
智恵子と関係を持ったんだろう(シャワーぐらい浴びただろう)と
言ってるような気がした。
洗濯物を畳みながらこんな謎かけのような話をする
稔の鬱屈感が迫ってきて怖いくらいでした。

稔はかつて智恵子が猛とつきあっていたと知っていて
そんな女性が今では自分と親しくしていることに
かすかな優越感のようなものを感じていたのかもしれない。
でも…やっぱりダメだった。

香川照之が凄かった。
お面が張り付いたような「いい人」っぷり。
もともと善良な人なのに、
いつのまにかそれがお面のようになってしまっている。
瞬間的に爆発する感情の高ぶりが悲しい。

智恵子の体内に精液が残っていた。
前日に誰かと関係を持ったことが明らかになる。
(DNA鑑定で稔ではないことが判明している)
「相手に申し訳ないことをした」と傍聴席に頭を下げる稔。
傍聴席にいるのは猛。その猛の表情が何とも言えない。
…怖いシーンでした。
こんな場面を脚本に書く西川美和という人がおそろしい。

弟は最初から兄を救おうと考える。
それはすなわち兄の犯行を確信しているわけで
兄の手に残った傷は智恵子に抵抗されたからついたとでも
思っていたのでしょう。
稔が言ったとおり、信じてなんかいない。
それはなぜか。
聞こえるはずがない吊り橋上でのふたりの会話が
想像できてしまったから。
直前に智恵子が猛と交わした会話から
稔を拒絶する智恵子の言葉が想像できたから。
(こんなふうに考えることからして
猛の傲慢さが現れてると私は思った)

兄が殺した。猛はそれが真実だと信じている。
それでも兄が犯罪者にならないようにしてやっている
そんな自分に兄はなぜいままで言ったことのないような
冷え冷えとした言葉を投げつけるのか。
猛は気持ちを揺さぶられる。

そして法廷で兄を追いつめる決定的な発言をする。
ここに至って猛は稔を信じていないという
自分の気持ちを口にしたわけです。
ほうらオレの言ったとおりだろとでもいいたげな
稔の表情は、追いつめられた者の表情ではなかった。
「勝った」と言っているようだった。

判決が下され稔は刑に服す。
7年の時が流れ出所の時期が来る。
それを猛に伝えに来たのは稔と働いていた従業員。
彼こそが弟よりも稔の側にいて稔を理解している人物です。
「稔さんを帰してください」と彼は言う。
正面切って猛を責める。

幼い頃の8ミリフィルムを見ながら
兄がどういう人間だったのか素直に思い出す。
腕に残っていた傷。
それまで思い描いていた吊り橋上でのできごとに
思いもしなかった可能性を見いだしたとき
やっと兄と自分との関係性に気づくことができる。
弟は兄の苦しみを理解しようともせず、
さまざまなものを奪い去った。
おまえは何もわかっちゃいないと
どうしようもなく兄は訴えていた。
映画のラストで、そうだ、自分は何もわかっていなかったと
弟はやっと気づくことができたのでしょう。

奪ったのは弟だけではない。
それなのに弟にこれほどまでに感情をぶつけていく。
二人の間にある良くも悪くも逃れようがない
兄弟という絆が見えるようです。

ラストシーンは余韻を残すものでした。
私には「もういいんだ」と言ってるように思えました。

弟を取り戻した瞬間の兄の顔でした。

ゆれる

ゆれる



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コメント 8

ミック

この映画の面白いところは見る度に心の揺れ感を味わえるところです。
私は邪魔がいろいろ入り、2回見ました。
1度目と2度目では間が一ヶ月くらい開いていました。
それで、ラストシーンの捉え方が変わっていました。
たった、一ヶ月で。ほんと、つり橋の様に心が「ゆれる」映画でした。
最近見た映画では一番良かったです。
(私はオダギリジョーファンなので、贔屓目ですか?)
TBさせて下さいネ^^。
by ミック (2007-05-28 23:54) 

かいろ

miyucoさん、こんにちは。ものすごくご無沙汰してしまって申し訳ありません・・・。TBを送らせていただきましたのでよろしくお願いいたします。
途中の香川さんの怖いような笑顔と、最後のかすかな微笑みが本当に印象的でした。わたしも、「もういいんだよ」と言っているような気がします。
エンディングに流れる曲に、希望を感じました。
by かいろ (2007-05-29 09:09) 

miyuco

>ミックさん
私も最近観た中で一番好きでした。
映画に描かれている感情のかけらから
いろいろと想像できてしまって
書いても書いても書ききれなくて困りました。
(記事の最後に一行足してしまいました)
ラストシーンは兄が弟を取り戻した瞬間だったのかなと
思います。
オダギリジョーはホントによかった。
無自覚で傲慢で、徹底的にかっこいい。
ますますファンになってしまいましたわ[ラブラブハート]
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-05-29 13:53) 

miyuco

かいろさん、お久しぶりです[ラブラブハート]
体調があまりよろしくないようにお見受けしましたが
だいじょうぶですか?コメントをいれると負担になってしまうかなと
思ったりしてこちらからもご無沙汰してしまいました。
「ゆれる」
いい映画を観せていただきましたという気持ちです。
エンディングには意表を突かれましたが私も好きです。
兄と弟の心の動きにシンクロしてしまって
他の出演者の印象があまりないという次第でございます^^;
映画の見方としては邪道ですが…
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-05-29 14:02) 

真紅

miyucoさま、こんにちは。私もTBさせて下さい。
この映画、観終わってから物凄く考えさせられる映画でした。
絶賛されている方も多いですが、ものすごく感情的に「大嫌い」とおっしゃる方もいます。
なかなか一筋縄ではいかない映画だと思うのです。
場面一つの解釈も、様々なことを考えさせられました。
香川さん、本当に凄い演技でしたね。恐ろしいほどでした。
オダジョーは、この演技もよかったと思うのですが、私としては『東京タワー』の演技のほうが好きでした。
ではでは、また来ます~。
by 真紅 (2007-05-29 23:15) 

miyuco

真紅さん、こんにちは。
自分の記事をアップしたあと、妄想が入ってるのではないかと
もしつっこまれたとしても、反論できないなと思ったりしました。
よく言えばわたしなりの解釈ですが
違う受け取り方をなさる方がいるのも当然のような気がします。
確かに一筋縄ではいかない映画ですね。同感です。
オダジョーは幸福な役者さんだなと思いました。
香川照之との共演の後に希林さんですものね。
望んで出来ることではないですから。
コメントとTBありがとうございました♪
by miyuco (2007-05-30 17:02) 

midori

nice!
はじめまして.
私の邦画マイベストワンの作品です.
観ている間,私の心は揺れっぱなしで...
でも新作『ディア・ドクター』もスゴイ映画でした.
ベストワンが入れ替わるかも.
どちらにしても,この監督,本当に恐ろしい人です.
by midori (2009-08-23 14:08) 

miyuco

midoriさん、こんにちは^^
恐ろしい作品ですよね。
厳しく突き詰めていく事でしか得られないものが
見事に表現されていると思います。
最近映画から遠ざかっていて
残念ながら『ディア・ドクター』は未見です。
DVDになったら観ようかな。
楽しみです^^
nice!とコメントありがとうございました♪

by miyuco (2009-08-24 18:09) 

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