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『鹿の王 上・下』 上橋菜穂子 [読書]

ラストシーンがとてもよかった。
救いがあります。
欠け角のヴァンと天才的な医術師ホッサル
立場の違う二人の主人公が魅力的です。
きかんきの幼い女の子ユナもかわいい。
サエは自由に生きることができるのでしょうか。

貧しい氏族に迎えられたヴァンが
一族に馴染んでいき、その知識と働きぶりで
かけがえのない存在になっていくところが好きです。

「ただ生きているだけの虚ろな何かにすぎなかった」
生きることより、死ぬことに熱心な
哀しい死兵であったヴァンが
故郷のトガ山地で暮らしていた頃の
生まれながらの狩人であり
飛鹿(ピュイカ)とともに生きていたヴァンに戻っていく。
暮らしぶりのていねいな描写のなかで
すさんだ心が息を吹き返していく様子にホッとします。

それでもヴァンの怒りと悲しみは癒えることがない。
「長く生きられる命と、長くこの世にいられぬ命。
いったい何が違うのだろう。」
「なにをしたわけでもない幼い息子が、
なぜ、あれほどあっけなく逝かねばならなかったのか。
病はなぜ、あの子と妻を選んだのか・・・」
「それを思う度に、この世の理不尽に、
息苦しいほどの怒りを覚える。」

しかし、ヴァンの怒りも変化していきます。 

「雑多な小さな命が寄り集まり、
それぞれの命を生きながら、
いつしか渾然一体となって、
ひとつの大きな命をつないでいるだけなのだ。」

ウイルス関係の説明のややこしさが
物語の流れを阻害しているように感じる。
ファンタジーの世界観を壊さないために
現代医学の言葉を避けて説明しなければならない
という縛りがあるのかもしれないけれど。

気に入っているところは多いのですが
どうにも消化不良のような読後感が残ります。 

最後の山場も、そこにいたる道筋や
首謀者の彼の描写が駆け足すぎた気がする。

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強大な帝国にのまれていく故郷を守るため、
死を求め戦う戦士団<独角>。
その頭であったヴァンは、奴隷に落とされ、
岩塩鉱に囚われていた。
ある夜、ひと群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、
謎の病が発生する。
その隙に逃げ出したヴァンは幼い少女を拾う。

一方、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、
医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。

感染から生き残った父子と、
命を救うため奔走する医師。
過酷な運命に立ち向かう人々の“絆”の物語。

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死に場所を探してさまよう男がなぜか生き残る。
死闘をくりひろげた戦地で。
獣におそわれ謎の病を発症し
すべての人が死に絶えた岩塩鉱で。
屍の中でもう一人だけ生き残ったのは幼い子ども。
ヴァンは幼子をつれて岩塩鉱を脱出する。

かつて古オタワル王国を滅ぼした疫病・黒狼熱(ミツツアル)
岩塩鉱の人々を死に至らしめた病の症状が
黒狼熱(ミツツアル)に似ている。
生き残った者の身体を調べることで
病の原因と治療法、感染拡大を阻止する手立てを
導き出せるのではないかと
医術師ホッサルは考える。

「生き残った者」の資質に目をつけ、
父子を追っているのは
アカファ王の網・アカファの後追い狩人<モルファ>
だけではなく、ほかにもいるということが
読み進むうちにわかってくる。

支配する国と属国。
同じ民族でありながら
犠牲を強いられる氏族の怒り。
さまざまな思惑が入り乱れ
事態は混沌としてきます。
(そして私の頭の中もこんがらがっていく・・・)

幼い時から「飛鹿(ピュイカ)」を扱い、
「飛鹿(ピュイカ)」を乗りこなしていた戦士が
扱いを手ほどきして信を得る。

<暁(オラハ)>と再会するシーン
躍動感あふれる文章が素晴らしい。
「飛鹿(ピュイカ)」と生きていたヴァンの
ひとつひとつの細胞が沸騰するような喜びが
ストレートに伝わってきます。

「この速さ、この音、この振動。
このすべてを愛してきたのだ。」 

*

以下、おぼえがき 

キーポイントは乾酪=チーズですね。

東乎瑠(ツオル)帝国の属領となっているアカファ王国。
東乎瑠は移住民をアカファへと入植させた。
古くからアカファ麦を栽培している地に
移住民が入植し黒麦を栽培しはじめたことで
交雑種が生まれた。
それは強い毒穂がつきやすい。
急激な植生の変化による歪み。

毒麦の被害で火馬(アファル)が死んでいく。
自分たちの土地に移り住んだ見知らぬ人々に
憎悪は向き、襲撃事件が起きる。

その結果、<火馬の民(アファル・オマ)>は
住みなれた土地を追われる。

怒りと悲しみに打ち震える彼らは
毒素を宿した獣を武器に
土地を取り戻すための策を弄する。
『犬の王』こそ彼らの策の要。
群れの操り方を知る者『犬の王』の
後継者になる資質はヴァンだけが持っている。

かつてアカファ人は黒狼熱で死ぬことはなかった。
それならば、再び病を流行らせることで
アカファ人だけが生きのび
戦をせずに東乎瑠(ツオル)を撤退させることができる。
アカファの要人たちはその可能性に心を動かされる。

「アカファを、恐ろしい疫病が蔓延している病んだ土地にして、
彼らが自らこの地から去るように仕向けようと思ったわけか・・・
なんという愚かなことを」
「病に絶対はないんだぞ、
いきなり病毒の性格が変わることだってあるんだ。
そんなことをすれば、この先・・」

今回の病は以前の黒狼熱と同じではない。
アカファ人すら無傷ではいられないとわかり
<火馬の民(アファル・オマ)>を切り捨てる。

追い詰められた者たちは捨て身の策に打って出る。 
(それすらも利用しようとする奥にいるもの)
感染拡大を阻止しなければならない。
ヴァンは動き出す。

「鹿の王」
飛鹿(ピュイカ)の群れの中には、群れが危機に陥ったとき、己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。
長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、危難に逸早く気づき、我が身を賭して群れをたすける鹿が。
たいていは、かつては頑健であった牡で、いまはもう盛りを過ぎ、しかし、なお敵と戦う力を充分に残しているようなものが、そういうことをします。
私たちは、こういう鹿を尊び、<鹿の王>と呼んでいます。群れを支配する者、という意味ではなく、本当の意味で群れの存続を支える尊むべき者として。

「私たちは、過酷な人生を生き抜いてきた心根をもって他者を守り、他者から慕われているような人のことを、心からの敬意を込めて、あの人は<鹿の王>だ、と言うのです。」

鹿の王・ヴァンは深い森の奥へと消えていった。
彼を慕う者たちは後を追う。

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/24
  • メディア: 単行本



鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐

鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐

  • 作者: 上橋 菜穂子
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/09/24
  • メディア: 単行本






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