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『かがみの孤城』 辻村深月 [読書]

2018年本屋大賞受賞作。
傑作との誉れ高い作品ですが
わたしは少し疑っていた。
「大人向け」にシフトチェンジして直木賞を獲った作家さんが
もう一度10代を描けるのか。

読み終えて杞憂だとわかりました。
パワーはそのままに
より優しくなって戻ってきたように感じます。
傑作です。

初期の頃の作品が大好きでした。
心揺れる10代の「少し不思議な物語」を
もう辻村さんは書いてくれないだろうと思っていた。
読むことはできないと思っていました。
再会できてほんとうに嬉しいです。



「何人もの読者の方に、この本は
『冷たい校舎の時は止まる』のアンサーだと思いました
と言われました」
・・・著者インタビューより

「大人の描き方が変わった」
「大人と子ども、両方に対してフェアであろうと思いました」


作者の誠実さは物語からきちんと伝わってきました。


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どこにも行けず部屋に閉じこもっていた“こころ”の目の前で、
ある日突然、鏡が光り始めた。
輝く鏡をくぐり抜けた先の世界には、
似た境遇の7人が集められていた。
9時から17時まで。
時間厳守のその城で、胸に秘めた願いを叶えるため、
7人は隠された鍵を探す―


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たとえば、夢見る時がある。
転入生がやってくる。
その子はなんでもできる、素敵な子。
クラスで一番、明るくて、優しくて、運動神経がよくて、
しかも、頭もよくて、みんなその子と友達になりたがる。

だけどその子は、たくさんいるクラスメートの中に
私がいることに気づいて、その顔にお日様みたいな眩しく、
優しい微笑みをふわーっと浮かべる。
私に近づき、「こころちゃん、ひさしぶり!」と挨拶をする。
周りの子がみんな息を呑む中、
「前から知ってるの。ね?」と私に目配せをする。
みんなの知らないところで、私たちは、もう、友達。
ーーー 中略 ---
だからもう、私は一人じゃない。

そんな奇跡が起きたらいいと、ずっと、願っている。

そんな奇跡が起きないことは、知っている。


冒頭の文章。
ここを読んだだけで胸がチクッとなる。
はるか昔10代だった頃の教室を思い出してしまう。
当時の私も願っていた。
そして奇跡が起きないこともこころと同じように知っていた。


しかし作者は奇跡を起こしてくれました。


rain-101 はっぱ.gif


中学一年生の“安西こころ”は
4月だけしか学校に行っていない。

「教室で流れている時間から、こころは振り落とされたのだ。」

たちすくみ身動き取れないこころの前に
不思議な城とそこに集められた中学生たちが現れる。


中学生になったばかりのこころはまだ狭い世界にいる。
新しい出会いがあるはずだった学校という場所から
いきなり暴力的に遮断されてしまった。
作者はこころに鏡を通り抜けた先にある
城という場所を用意する。
城でのやりとりは現実世界のこころを後押しします。

終盤の怒涛の展開から
奇跡が起こるラストまで読む手が止まらなかった。


おだやかなエピローグ。
心のどこかに痕跡はかならず残っているはず。


誠実に寄り添ってくれる大人
同い年なのに別の視点を持っているクラスメイト
こころは出会えて幸運です。


どうか立ちすくんでいる子どもたちが
何らかの出会いで救われますようにと
祈らずにはいられません。


* * *


すべてが終わった後の思いがけない彼の言葉。
最後に救われたのはあの女の子だったのでしょう。

「善処する」



以下、つらつらと自分語りのようなことを

あの頃の私が感じていたことを
こんなに的確な言葉で、
何十年もたってから受け取ることができるなんて・・・





こころをターゲットにする真田美織


「物怖じせず、新しい教室の中でも、
誰に気を遣うでもなく大きな声で話す」

「同じ年の人間なのに、彼女たちが、
学校やクラスの、全部の権利を持っている気がした。
どの部活に入りたいと最初に言える自由、
後から同じ部活を希望した子を
「らしくないよね、やめたら」と陰で言える権利、
どこ子がイケてると決めて、
自分たちの仲良しに選ぶ権利、
担任の先生にアダ名をつける権利、
---好きな男の子を真っ先に決めて、恋愛する自由。」


「学校の先生たちは、たいてい、
真田美織みたいなクラスの中心人物の味方だ。
教室の中で大きな声で話す、
休み時間も外で友達とたくさん遊ぶ、
溌剌とした、ああいう真っ当な子の。」


正確には真っ当に見えるだけの子。
辻村深月さんは何十年も前の教室で
わたしが思っていたことを的確に言葉にしてくれる。
先生は活発で頼りにしてくれる生徒が好きなんだろうと
なんとなく思っていた。
同じことをしていても評価が微妙に違うことにも気づいていた。
仕方ないことだと思っていた。
だから当時の私は先生に弱みを見せたくなかった。


そんな10代の頃を思い出しました。








かがみの孤城

かがみの孤城

  • 作者: 辻村 深月
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 単行本









タグ:辻村深月

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